「 子どもは嘘をついていない 」

時々子どもからじゃんけんしようと、誘われる事があります。そんな時の子どもは、勝つ気満々です。しかし、子どものジャンケンのパターンやタイミングを見れば、大人が楽勝です。とはいえ、子どもに喜んでほしいのでわざと負けたりします。それもただ子どもが勝つのではなく、大人を手玉に取らせるのです。最初に、何を出すか子どもに聞きます。中には「教えへん」という子もいますが、たいてい「グー」とか教えてくれます。そこで独り言のように、しかし子どもに聞こえるように「それやったらパー出そ」と小芝居をするのです。すると4~5歳児なら、ほぼチョキを出してきます。当然子どもの勝ちです。これを繰り返します。子どもはジャンケンに勝つうえ、大人をやり込められるので、2重に嬉しいのです。

このように相手の裏をかく行為は、人間に快感を呼びます。スポーツであれゲームであれ恋愛?であれ全ての勝負事は、これをみがくことによって勝ちにつながります。ただし使い方を間違えると、信用を失うことがあります。それが嘘です。子育て中の皆さんの中には、我が子の嘘に悩んでいる方もいるのではないでしょうか。

嘘つきは泥棒の始まりなどと言います。だから嘘をつく事はとても悪い、というのが日本の社会的通念です(日本だけではないでしょうが)。だから子どもが嘘をつくと、親は怒るわけです。子どものころ母親から「嘘をつくと閻魔さんに舌を抜かれる」と言われていました。それが効いたかどうかまでは覚えていませんが、閻魔さんの話は今でもはっきり覚えています。通常大人の嘘は何らかの利益を得る、あるいは不利益を蒙らないための意図した作り話です。子どもの嘘にもそんな一面はありますが、基本的に大人のように意図したものではありません。例えば、子どもの代表的なトラブルに喧嘩があります。誰々がたたいた、誰々におもちゃを取られた…等、自分に不都合な状況を大人に訴えてきます。もちろん訴え通りの場合もありますが、よくよく当事者の話を聞いたり、周囲の子どもたちに事情を聞くと、最初に聞いた話とは違う実情が、明らかになる場合があります。訴えてきた子どもに、そもそもの原因があったりするのです。ただしだからその子が嘘をついている、というのではありません。何故なら子どもは、自分が被害者だと信じているからです。もっと言うなら自分こそ正しいと思っているのです。これから考えられるのは、子どもの嘘は一つの自己表現だという事です。子どもは嘘をついていないのです。自分の思いを伝える一つの手段なのです。

しかしながら4~5歳くらいになれば、大人と同じ様な嘘をつく場合も出てきます。ただし大人とは違いこの嘘には、ある切実な思いが込められています。それは大人の関心を、自分に向けたいということです。例えば実態はないのに、園でいじめられていると言うと、親は直ちにその言葉に反応し、自分のことを気づかってくれます。つまり子どもの嘘には、そんな親の気づかいへの期待が隠されているのです。そうやって考えると親に嘘をつく時は、親が子どもの現状に安心している時、言葉を変えると油断している時に、多いのではないでしょうか。親は我が子の現状に、心配を感じていないのですが、子どもはそうではないことも少なくないのです(ただしそれを具体的に、意識していないでしょうが)。ひょっとすると親子関係、兄弟関係、友達関係…等に子どもは、不安を感じているのかもしれません。しかし親はそれに気づいてくれない、自分もどうやって伝えたらよいのか分からない、そこで自分の思いを伝える手段として、無意識に嘘をつくように思います。何故なら、嘘は親に対するインパクトが強いからです。だから子どもが、しばしば嘘をつくようになった時には、まず親は我が子の日常を見直すことが大切でしょう。人間のあらゆる行動には、必ず理由や原因があります。子どもの嘘に悩む時には、まず近頃の親自身の子どもに対する関わりを、振り返ることが必要だと思います。

一度嘘をついて、親の関心を引くことに成功した子どもは、嘘を連発することがあります。それは親から怒られる事も、どこかで覚悟した上での行動です。子どもにすれば、それだけ切実なのです。しかしいつまでもそんな効果が続かないことを知れば、嘘もそのうち収まります。今度はそれに代わる、新たな自己表現の手段や方法(例えば、なわとびやお手伝いなどの身近な取り組みや、ダンス、歌などの自己表現を広げる等)を身に付けていくのです。言い方を変えるなら、生きる自信をつけるのです。その為には、家庭におけるお母さんやお父さんの支えが大切であり、それが子育てでもあるのです。ただし少しでも早く自信をつけさせなければならない、とは考えないでください。親子で共に試行錯誤することが、親子の信頼関係を育むのだと思います。

嘘をついたからといって、我が子を怒るだけでなく(怒ったらだめという事ではなく、怒るだけではだめという事)、親子関係を考える良い機会ととらえ、長い目で見守ってほしいと思います。

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